羽衣

 綺麗な着物にはいつの時代の女の子だって憬れるものだ。
「でも、これはあんまりだと……」
 目の前に広げられた色とりどりの着物を前に気後れしがちの望美に年嵩の女房たちは微笑ましくありながら、やんわりと諭す。
「望美様にお似合いになるものばかりを頭領はお選びになられたのですよ。そのようなことをおっしゃいなられましては……」
「そうですわよ。ああでもない、こうでもないとおっしゃって……」
 望美が望めば叶わぬことなどないような立場であるのにいつだって謙虚な姿勢を崩そうとはしない。その性格を誰もが好ましく思うのだ。
「でも、着物の方が私より綺麗じゃない? ヒノエくんにそう思われないかな……」
「まぁまぁ」
 愛らしい不安に女房たちはやはり顔をほころばせる。そして、思うのだ。熊野を背負うヒノエが選んだのがこの少女でよかったと。龍神の加護を受けたとはいえ、何の後ろ盾もない少女、しかも源氏方についていたということで望美の存在を快く思わないものがいなかったといえば、うそになるけれど。この愛すべき素直さや愛らしさに誰もがほほえましく見守ってしまうことになって、すっかり望美は認められたのだ。もちろん、そこには望美を溺愛してやまないヒノエの存在があったこともいうまでもないけれど。
「ささ、袖を通してくださいましな。頭領がお戻りになられたときにそれでお迎えをなさると喜ばれますわ」
「本当?」
 仕事の関係で一週間ほど留守にしているヒノエが戻ってくるのは明日の夜。久しぶりの逢瀬なら、喜んでもらいたいと思うのが乙女心というもので。
「ええ。ですから」
「うん」
 ヒノエが喜んでくれるなら…と最終的にはうなずくのだ。


 夜、熊野別当としての仕事を終えたヒノエは自分を出迎えてくれた望美の姿に一瞬息を呑んだ。
「……あの、似合わない?」
 ヒノエのその反応を、不安げに見上げて伺う望美。その姿に、ヒノエはハッとして、笑顔を見せた。
「いや……。天女が舞い降りたのかと思って、驚いただけだよ」
「もぅ……。ヒノエ君ってば……」
 カァッと頬を赤らめるその姿すら愛らしいのはどうかと思う。
「さ、おいで……」
 導かれるままに望美はヒノエの傍らに。
「もっと、傍にだよ……。綺麗なお前をもっと……」
「あ……」
 腕の中に囚われる。長い髪をなぜるように触れられて、首筋をたどる指先にゾクリと肌があわ立つ。
「……あ、あの」
「その着物がはだけて、お前の美しい体が花開いてくのを見るのも、楽しい、な」
 耳元でそう囁かれてしまえば、望美に抗う術もあるはずもなく。重ねられた唇の熱さに翻弄されるだけ。
「あ、着物が……。皺に……」
「気にすることはない。また、俺が用意させるから」
「だって、せっかくヒノエ君が……」
「今度は月の光を集めたような着物がいいかな? だから、ほら……」
 滑らかな肌にすべる指先に、唇に翻弄されてゆく。色鮮やかな衣から咲き零れた、ヒノエだけが愛でることを許された、月の花。甘い蜜をこぼし、甘い声で誘い、そして……。ただ一つの熱に溶けてゆく……。

マイドキュメントの中で放置されてた書きかけの話です。裏も久々に書いたなぁ……。

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